フィギュアスケート男子で冬季オリンピック2連覇の羽生結弦さん(30)が5日、出身の仙台市に完成した通年型のスケートリンク「ゼビオアリーナ仙台」(太白区)の開館記念アイスショー「The First Skate」に出演した。
市とスポーツ用品販売大手のゼビオホールディングスが連携し、公式大会を開催できる国際規格のリンクを整備。これまで宮城県内に常設で60m×30mのリンクはなく、待望の開場となった。こけら落としのイベントで羽生さんは何を思い、何を語ったのかー。コメント全文とともに詳報する。(取材:井上将志/撮影:植田千晶)

台湾の羽生結弦さんファンも
最高気温が30度を超えた仙台市。汗ばむ陽気の中、超高倍率のチケット抽選で幸運に恵まれた観客は午後0時25分の開場前からアリーナ前に長蛇の列をつくった。中にはバナーを手にする台湾の羽生さんファンも。世界的な人気を改めて実感した。

「トゥーランドット」でイナバウアー
予定よりも10分遅れて午後1時40分に開演。オープニングは、まず羽生さんが選手時代から拠点を置くアイスリンク仙台のスケーター24人が群舞を繰り広げた。ショーの振り付けは、羽生さんが師事したこともある阿部奈々美さんだ。
続いてオープニングアクト②。イタリア歌劇の名作「トゥーランドット」のアリア『誰も寝てはならぬ』のアレンジ版「Nessun Dorma」に合わせて本郷理華さん、鈴木明子さん、本田武史さんが次々と登場。最後に羽生さんが現れると、3378人が詰めかけた会場からひときわ大きな歓声が上がった。軽やかなスケーティングに、極め付きはクライマックスの「イナバウアー」。同じ仙台市出身の荒川静香さんが2006年トリノ冬季オリンピックで頂点に立ったあの名場面をほうふつとさせた。

「仙台市からオリンピックを夢見て、オリンピックの金メダルを夢見て頑張ってほしい」
ここからは、地元の有望スケーター2人とトップスケーター4人によるソロナンバー。羽生さんによる大トリの演技前、場内にメッセージ動画が流れた。
「仙台市アリーナ開館おめでとうございます。新しいアイスアリーナがまた仙台にできるということで、本当に僕自身もこれからどんどん、どんどん、仙台市のフィギュアスケーターたちがたくさん練習できて、そしてたくさんたくさんうまくなっていくことを願いながら、このショーに参加させていただいております。もちろんこれからの未来をどういうふうに描いているかは、その子たち次第なんですけれども、それでもまた、この仙台市からオリンピックを夢見て、そしてオリンピックの金メダルを夢見て、これから頑張ってほしいなと願っております。また、今回来場してくださっている皆さん、本当にありがとうございます。この新しいアイスアリーナ、またぜひ皆さんの空気で感じながら、そしてスケートをたくさんたくさん楽しみながら、帰って頂けたらうれしいなと思います。よろしくお願いします。ありがとうございます」

アンコールは「Let Me Entertain You」
羽生さんがこの日しっとりと滑った音楽は「春よ、来い」(清塚信也)だった。選曲に込めた思いは、後ほどの囲み取材コメント全文で紹介する。
羽生さんの演技に観客は圧倒されたのか、余韻に浸っていたのか。雰囲気を悟った経験豊富な場内アナウンサーがすかさず「皆さん、もうちょっと拍手してみましょうか?」と促すと、拍手が起きる。アンコールの求めに応じて羽生さんは再び氷上へ。腕を突き上げ、今度は一転してエネルギッシュな「Let Me Entertain You」を演じ、観客を熱狂へと誘った。

「故郷、家族、仲間への思い」「好きな場所で、好きな仲間と、好きな先生とずっと一緒にできたらいい」
開館イベントの事務局によると、アイスショーを取材したメディアは39社に上った。フィギュアファンの間では有名な敏腕カメラマンやライターが集結。公演後に行われた囲み取材で、羽生さんは本田武史さん、鈴木明子さん、本郷理華さんと並んで質問に応じた。
―出演した感想を。
羽生さん「先輩方、本郷さんは後輩なんですけど、やっぱり地元のスケーターみんなと一緒にこうやって一つのショーを作り上げて、仙台の地でやっぱり、みんなで何かを作り上げるということの楽しさと、またそれを何か仙台の方々、仙台に集まってくれた方々に対して発信できたのはすごく良かったなと思っています」
(※羽生さんは小学生時代、練習拠点としたスケートリンクが閉鎖される憂き目に遭った)
―仙台の人にとって、どんな場所になってほしいか。
(先に答えた本郷さんと鈴木さんが、過去のリンク閉鎖の思い出に触れつつ、リンク新設が強化と普及の両面に寄与することを願うコメントをしたことを受け)
羽生さん「もう本郷さんと鈴木さんが全て言ってくれたので(笑)」
鈴木さん「ゆづの言葉が欲しい! ゆづの言葉が欲しい!みんな(笑)」
羽生さん「まあ、その通りだなという言葉をいただけたので…」
鈴木さん「リンクなくなっちゃうのはね…」
羽生さん「うん、うん、うん。 あと、やっぱり本田さんとかもそうなんですけど、どうしても仙台のリンクで練習し続けるという中で、世界のトップを狙っていくということになっていくと、もっと恵まれた環境に行かざるを得ないっていうことが、まあ、僕も含めてあって、そういうことがあると、やっぱり自分たちも故郷への思いであったり、家族への思いであったりとか、仲間への思いだったりとか、何かいろんなことが『うわー』ってなることが絶対あるので、やっぱり好きな場所で、好きな仲間と、好きな先生と一緒にずっとできたらいいなということは思いました」

「体が動くうちは全力で、全身全霊で滑り続けたい」
―現役のアイスリンク仙台の子どもたちと一緒で感慨深かったか。羽生さんご自身は『まだまだ頑張ってスケーターとして続けていきたい』と前におっしゃっていたが、その辺りの思いは。
「(やや困惑気味に)えっと~、えっと…。後ろ(二つ目)の質問の答えは何と言ったらいいか分からないんですけど、まあ、とりあえず体が動くうちは、全力で、全身全霊で滑り続けたいと思います。別に何か、何だろう、後輩に背中を見せるとか、そんなのは関係なく、フィギュアスケートの可能性を切り開きたいとかそういうのも全然関係なく、ただ、ひたすら自分が目指しているものであったり、また新しいものであったり、理想だったり、そういったものを常にアップデートしながら、何かいいものを日本に、世界に発信できるように頑張っていきたいなと思います」
「えっと、後輩たちと一緒に滑ったことについては。やっぱり、あの、僕自身、こうやって本田さんとか、鈴木さんとかと一緒に滑ることが小さい頃からあって、そのたびに非常に大きな刺激を受けて、僕は小学校6年生の頃からシニアのアイスショーに参加させていただいたんですけど、その時に、ものすごく間近で見るジャンプの迫力であったり、表現力であったりとか、スピードの緩急であったりとか、ものすごくいろんなことに刺激を受けました。そして勉強になりました。今日滑った子どもたちが、そうやって、ちょっとでも僕らの中から刺激を受けたり、また勉強になったり『いや、こいつらより絶対うまくなってやる!』って思ってくれるような(笑)子たちが出てきてくれたら、うれしいなと思います」

「始まりをイメージ。一歩進むことができたら、との祈りを込めて」
―この日のソロのプログラムに込めた思いは。
「始まり(The First Skate)ということが1つのテーマでもあるので、自分にとっては始まりの季節、春というようなイメージで『春よ、来い』を選ばせていただきました。何か少しでも今日滑った子たち、そして今日見に来てくださった方々の中で、何か季節だけじゃなくて、この見たことがきっかけで何かが始まったり、何か一歩進むことができたらいいなという思いを込めて、祈りを込めて滑りました。個人的には本田さんの『リバーダンス』がめちゃくちゃ熱かったです(報道陣の笑い誘う)」
本田さん「リバーダンスにした理由は特になかったんですけど、今のスケートのルールだと難しいステップをやる中で、このリバーダンスってちょっと異色な時代のプログラムだと思うんですよね。そういうものもスケートとして見せられるんだよ、っていうのもありましたし、本田武史といえば『アランフェス』か『リバーダンス』だったので」
羽生さん「ドンキホーテは!」
本田さん「ドンキホーテはもうちょと古いです(笑)なので、まあ『リバーダンス』の方が曲的にも盛り上がるかなと思いましたし、最初の時にスケート、自分の気持ちを盛り上げたいなと理由がありました」

製氷担当者へ感謝の言葉も
―初めてリンクで滑って会場の雰囲気や氷の感じなど感じたことは。
羽生さん「専門的なことを言うと、すごくその、そもそもバスケットボールであったりとか、アーティストさんのイベント用に作られた会場なので、常設の氷を張るというのは非常に大変な作業だったと思います。そんな中で、今日も会場に来られた方は思ったと思うんですけど、非常に暑いですし、室温だったり湿度管理であったりとか、本当にいろんなことを試しながら、やっとできた氷だな、ということを改めて感じつつ、そこにすごく感謝したいなって今日思いました。また、これから、先ほども言ったように張り立てではあるので、これからいろんな経験を積んで、今日のことも含めて、もっともっと、試合でも活躍してくれるような氷になってくれると思いますし、また、お客さんも入った時に、鈴木さんも言ってましたけど、すごくその表情が見える、すごく近くにあの演技の質感を感じられる会場の一つだと思いますので、是非足を運んでいただけたらうれしいなと思います」
約10分と設定されていた囲み取材は終了。
羽生さん「ありがとうございました。またお願いします!」
