フィギュアスケートの芸術性について研究するスポーツ科学研究者で、国学院大学准教授の町田樹さんが3月、金沢21世紀美術館(金沢市)で行われたトークセッションに登場した。
この日のトークのテーマは、「作品」としてのフィギュアスケート。フィギュアスケートを「芸術作品」として捉え、どのように残し、未来に伝えていけるのか―。午後に行われたトークセッションに先立ち、午前中には作品を保存、活用していくためのアーカイブについて、町田さんが考えたワークショップを一般参加者と実施した。トークセッションでは、そこでの体験について感想を交えながら「作品アーカイブとは何か」という問いから、それと分けて考えることのできない著作権の問題まで、企画した美術館のアシスタント・コンサヴァターの梅谷彩香さんとトークを展開した。 トークの内容を4回に分けて紹介する。
《トークではまず、町田さんがフィギュスケートを「失敗と隣り合わせの芸術」と定義づけるところからスタートした。梅谷さんが、まずこんな問いかけをした》
「作品としてのフィギュアスケート」というタイトルを(今回のトークセッションに)付けたわけなんですけれども、フィギュアスケートはまずオリンピックの競技にもなっている、スポーツですね。美術館に行って目にするような作品とは、ちょっと異なる側面があるので、フィギュアスケートに対して「作品」というのは、少し違和感がある方もいらっしゃるかもしれません。 一方で、野球やサッカーなどの競技とは違い、フィギュアスケートはその演技が「芸術的」と評価されることも多いですし、エキシビションやアイスショーなどのように、勝ち負けを競う競技会ではない形式で披露されることも多いです。町田さん、作品としてのフィギュアスケートとは、一体どういうことなんでしょうか
作品というのは、おそらく創作物の単位だと思うんですね。ある作品、一つの作品、二つ目の作品と数えるように。作品という概念の単位だと思うんですが、作り手がまずそれを作品だと思って作らないと、なかなか作品というのは生まれないし、それを見る鑑賞者の側も、それを作品であるというふうな態度で見ないと、なかなかその単位って形にならないと思うんですね。
それを考えると、フィギュアスケートは、スポーツでもあるんですけれども、振付師が一つの作品として、フィギュアスケートはフリープログラムだったら4分間、ショートプログラムだったら2分40秒という時間の尺があるんですが、その尺に応じて、明確に振付師がこういう作品…作品と言っちゃったけど(笑)、こういう動きで統一的な作品世界を作りたいという明確な意図のもとに作られたものです。
なので、(作品の)裏には作り手があって、その作り手はクリエイティビティーをパフォーマンスに搭載して「作品」として世に発表している。鑑賞者はそれを、スポーツであると思いながらも同時に作品としても見ている。(だから)フィギュアスケートはスポーツでもあり、アートでもあるという二面性を持っています。ただ、美術館で鑑賞されるような作品と何が違うかと言ったら、スポーティブな要素が含まれている。これを一言で言うならば、おそらく失敗と隣り合わせの芸術というのが一番的確なんじゃないかなと思います。
失敗と隣り合わせの芸術、それがフィギュアスケートなんでしょうか?
基本的に芸術の舞台は失敗が許されない。失敗がないものとして我々も上演しますし、鑑賞者も失敗がないものとして舞台を見ている。それから美術館で展示されている作品も、そこに作品があるので失敗はないですよね。だけど、フィギュアスケートは作品なんだけれども、スケーターは最高難度の技とか、失敗するか成功するか、乗るか反るかの瀬戸際のような高い強度の身体能力を作品に搭載して作っていますので、失敗があり得る。つまり完成するのが当たり前じゃないんです。
だからこそフィギュアスケートは、この難しい技を成功させて、作品が完成するかどうかっていうことを、人は手に汗に入って見て。それで、もし失敗してしまったら、「次に頑張ってくれたらいい」って、また応援する気持ちになる。そういうハードルをいくつもくぐり抜けて、「ノーミスの演技」ってよく言われますけれども、作品が完成した時には、(見ている)皆さんはそれが奇跡のようだと思って、熱狂して歓喜の空間が立ち上がるわけなんですよね。フィギュアスケートというのは、そういう意味でも「失敗と隣り合わせの芸術」と言えるんじゃないかなと思います。
このトークに先立ちまして、本日の午前中ですね、ワークショップ 「消え去る運命に挑戦:身体表現をアーカイブしてみる」を開催しました。こちらのワークショップは、形として残らない身体表現というものを、どのように記録し伝えていけるのか、それを参加者の皆さんに実践していただくというプログラムだったんですけれども、まずこちらのワークショップについて振り返ってみたいと思います。
ワークショップはこんな内容
【創作】町田さんと、ダンサーの義本佳生(けい)さんがそれぞれ1分程度のパフォーマンスを曲選びから振り付けまで作り、それを披露。町田さんは「待つ心」というテーマをクラシックバレエで、義本さんはカナリアをコンテンポラリーダンスで表現した。
【記録】町田さんと吉本さんは参加者の前で順番にパフォーマンスをし、一人が踊っている間はもう一人は楽屋で待ち、お互いにパフォーマンスの内容を全く知らない状態をつくる。参加者はAグループとBグループに分かれ、動画やインタビューでダンスを記録する。
【再現】Aグループは町田さんのダンスを義本さんに、Bグループは義本さんのダンスを町田さんに伝える。参加者から提供された記録を頼りに、町田さんは義本さんのパフォーマンスを、義本さんは町田さんのパフォーマンスを再現する。
第三者(参加者)による記録や伝達を通じて、パフォーマンス作品の再演を目指した。
実際に今回やってみて、町田さんから振り返りをお願いいたします。
あわせて読みたい

大学教授目指す町田さん フィギュア、プロにも幕
2018.07.24

SP3位にガッツポーズ 16歳須本光希、表彰台目指す
2017.12.08

羽生結弦、V2は体調面が鍵 宮原知子ら女子はロシアに挑む
2014.12.29

町田樹、立て直し図る全日本 フリーの「第9」に全精力
2014.12.25

作品の完成願う哲学者 ファイナル初Vに挑む町田樹
2014.12.10

日本勢一番でファイナルへ 町田樹、表現力に自信
2014.11.21






