昨年12月から今年2月にかけて羽生結弦さんが制作総指揮して出演したアイスショー『Echoes of Life』は、羽生さん自らが執筆したSF風の物語をベースにしています。
この作品で引用もしたという一冊が、哲学者で作家の永井玲衣さんの本『水中の哲学者たち』。ショーの物語は、複雑な世界の中で答えの出ない問いに向き合いながら他者と対話していくことの意味を考えるこの本と響き合いました。
一方、永井さんは難しくみられがちな「哲学」を、「日常の『何で?』に立ち止まって考える営み」と位置付け、学校や企業などで、さまざまな人の身近な問いを聞き合う「哲学対話」を実践してきました。
今回、そんな二人に日常の「もやもや」を持ち寄ってもらい、哲学対話をしてもらいました。答えを急がず、相手の言葉を待ち、時に沈黙...。水中に潜るかのように思考を巡らせ、言葉を探り出しました。

Amazonでひょんなことからお薦めされた
ー最初に『水中の哲学者たち』との出合いについて教えてください。
もともと僕、今、早稲田(大学)にいらっしゃる森岡(正博)先生の授業を履修していて、たぶん森岡先生に「参考図書としてこういうのがいいよ」と言われている本をAmazonで買っていたんですよ。それでお薦めのところに永井さんの本(『水中の哲学者たち』)が出てきて。
水とか、水中とかっていうのはものすごく好きなタイプでもあったので、「あ、読みたい」と思って、読んだのが最初ですね。本当にだからひょんなことというか、お薦めされたから「じゃあ(手に)取ってみようか」みたいな感じでいたのが始まりですね。
Echoes of Life
羽生さんが演じた主人公「Nova(ノヴァ)」は遺伝子操作で生まれたという設定で、自分という存在の意味を問いながら、世界に希望を見いだしていくストーリーです。物語には戦争や教育、ケア労働といった現代社会の課題を描き、既存のアイスショーの枠を超えた新たなエンターテインメントを感じさせました。命とは?役割とは?生命倫理とは? といった問いにこれまでも関心を抱いてきたという羽生さんは、ショーのパンフレットで「哲学を(ショーの)テーマにしたいと思っていた」と明かしました。

■羽生さんの『Echoes of Life』の動画配信は、こちら(「TELASA」に飛びます) Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR