2月6日、イタリアでミラノ・コルティナ冬季オリンピックが始まります。「Forza(フォルツァ)」とは、イタリア語で「頑張れ」のように応援の気持ちを表す言葉です。オリンピックで、フィギュアスケートの日本勢の活躍が期待される中、フィギュアスケートファンや競技経験者の文化人、3人に魅力や期待を語ってもらいました。
初回は、エッセー集『ヤットコスットコ女旅』の中で、フィギュアスケートを巡るエピソードをつづっている俳優の室井滋さん。1972年の札幌冬季オリンピックでは、“氷の妖精”と呼ばれたジャネット・リンさんに魅了され、テレビにくぎ付けになったそうです。
俳優ならではの視点で感じるフィギュアスケートの魅力や記憶に残るオリンピックでの演技について語ってもらいました。上・下でお届けします。
夢みたいだったアイスショー
―フィギュアスケートとはどういうきっかけで出合ったんですか?
「私、富山県出身なのですが、地元にスケートリンクがあって、スケートやスキーのようなウインタースポーツは子どもの頃から身近にある土地柄でした。10代の頃は、スケートを滑る時って手をつなげるじゃないですか、だから『スケート行かんけー』と男の子から誘われたり(笑)。もっと子どもの頃、小学1、2年の時のことだと思うんですが、お隣の石川県の金沢でアイスショーがあるからと学校を早退して行ったことがあったんです」
「私の母はもともと華やかな踊りとか、音楽が好きな人でした。ショーは、たしか『ホリデー・オン・アイス』っていう名前だったと思います。席は、リンクの本当にすぐそばでした。今だとリンクと客席との間にしっかりとした仕切りがありますが、その時はそうじゃなかったような、なんて言うんだろう…、スペシャルな場所だったんですね。ほかのスケーターに混じってピエロみたいな人が私の所に滑って近づいてきて、バケツでぱーっと私の目の前で水をまいたんですよ。そうしたら、その中にはきらきらと光る何かが混じっていて、会場からもワーッと歓声が上がって。座っていた私まで注目されて。夢みたいな瞬間で、自分が滑ったわけじゃないのに共演者みたいな、仲間のような気持ちになったんです」
「それがきっかけで、フィギュアスケートを習いたくて習いたくてしょうがなくなってしまって。でも、残念ながら地元にはアイススケートを教えてもらえる場所がなくて諦めたんです。それがフィギュアスケートとの最初の出合いでしたね。それからテレビでフィギュアが放送されると食い入るように見るようになるわけです」
―札幌オリンピックに出場したジャネット・リンさんに魅了されたとお聞きしました。
「ジャネット・リンさんは、『氷の妖精』と言われて、日本ですごく人気が出たんですね。コマーシャルにも出たりして。赤いすごくかわいい衣装で、笑顔もすごくすてきで。演技の途中で尻もちをついちゃったんですね。でも、それが全然気にならなくて。銅メダルだったんですが、私は長い間、金メダルだと思い込んでいたくらいです」
「そのスケーティングというのが、“節”(ふし)のない、流れるようなスケーティングというのかな。今の選手はダンスやバレエの要素が入っていて当たり前のようになめらかに滑りますが、当時はステップの前に準備をして、踊り、回転、着地に切れ目があるような滑りだったんです。でもジャネット・リンさんの踊りを見て『この人は他の選手と全然違う!』と思って、テレビにくぎ付けでした」
コーチも気になる
―オリンピックで記憶に残っている演技はありますか?
「やっぱり2006年トリノオリンピックの荒川静香さんのイナバウアー。すごくきれいな水色の衣装で、本当にあの場に何かが降りてきたみたいでした。たしかオリンピックの前から『絶対王者』と見られていたわけではないと思うんですが、氷の上で豹変して本当に美しかったし、素晴らしかった。記憶に残る、奇跡のように感じる瞬間でした」
「伊藤みどりさんはしっかりした筋肉の持ち主でトリプルアクセルをされて有名になって、世界的な選手でしたよね。私からすると、今の坂本花織選手を見ていると、演技にパワーのある感じが、伊藤さんを重ねちゃいますね」
「鍵山優真選手は、2014年のソチオリンピックの銅メダリスト、カロリナ・コストナーさんがコーチでしょう。鍵山選手は頑張っていてすごいなと思うんですけど、テレビで大会なんかを見ていても、つい現役時代の活躍を見ていたコストナーさんが気になっちゃって(笑)。どんな風に教えているのかな、なんて思ったりします」
「金姸児(キム・ヨナ)さんと浅田真央さんの時代もありましたよね。2010年のバンクーバーオリンピックで、キム・ヨナさんの『007』を見た時には、真央ちゃんをすごく応援していたので、『やられた!』と思ったことを覚えています。ちなみに実在する選手をモデルにしたフィギュアスケートドラマがあったら、名指導者の山田満知子さんの役をやりたいなって、狙っています(笑)」
―山田さんは、伊藤みどりさんから、浅田さん、宇野昌磨さんを育てた名指導者ですよね。ぜひ、室井さんに演じていただいてドラマを見てみたいです。コーチにも注目されてご覧になるんですか。
「そうですね。山田先生もそうですし、高橋大輔さんの長光歌子先生とか。日本の選手も海外のコーチにつくことがありますよね。コーチが変わることで、実際に成績が上がることもありますし。海外の選手がくるアイスショーなんかを見ていると、和気あいあいとしていて、“兄弟”のような関係性で仲の良い雰囲気が伝わってきますよね」
室井滋さん
むろい・しげる 富山県出身。早稲田大学在学中に映画『風の歌を聴け』でデビュー。映画『居酒屋ゆうれい』『のど自慢』『OUT』などで数多くの映画賞を受賞。2012年、喜劇人大賞特別賞受賞。ディズニー映画『ファインディング・ニモ』日本語版のドリーの吹替えを担当。著書に絵本『しげちゃん』、エッセー集『ゆうべのヒミツ』など。全国各地で「しげちゃん一座」絵本ライブを開催。2023年4月、富山県立高志の国文学館館長に就任した。最新刊に、「肉親」のようだったという猫6匹との暮らしをつづったエッセー集『やっぱり猫 それでも猫』。趣味は相撲観戦。
後編に続く。












