フィギュアスケート女子で昨シーズン四大陸選手権を初制覇した青木祐奈(24)=日本建物管財=が7月17日公開のオンラインセミナー「人×AIの共存と、コンピューティング技術が切り拓く未来 ― HPC・スパコンの最新動向と、フィギュアスケーター 青木祐奈選手と考える可能性 ―」(主催:日本ヒューレット・パッカード合同会社 協賛:エヌビディア合同会社)にゲストとして参加した。
特別講演トークショーのテーマは「AIとフィギュアスケートが織りなす競演、新たな『データ』はどんな未来を創るのか」。フィギュアスケートでのAI活用を研究する桐蔭横浜大学の廣澤聖士専任講師、AI研究家の大西可奈子氏とともに、スポーツ界におけるAIの未来について約45分間語り合った。
ナショナルトレーニングセンターではカメラを使った動作分析
青木は「得意なジャンプはトリプルルッツ―トリプルループで、表現することが好きです。5歳からフィギュアスケートをやっています」と冒頭で自己紹介。
フィギュア界におけるAI活用の現状について「ナショナルトレーニングセンター(NTC=関空アイスアリーナ)の方で(氷上ではなく)陸のジャンプの動作分析を、カメラを使ってしていて、そこから自分のジャンプがどういう形か、フィードバックをいただいています。自分のジャンプがどういう動きをしているのか、回転のつけ方であったり、ジャンプの高さを客観的に見ることができるので、すごく密度を上げて練習につなげられるかなと思います」と語った。
青木は日常生活でも「ほぼ毎日」AIを利用しているという。「チャットGPTなど、そういうAIを、英語のような勉強用途でも使いますし、自分のプライベートな相談もしながら使っています。音楽で例えばこういう感じの曲ない? といったことも、AIにちょっと助けてもらいながら聞いています」と明らかにした。
効率的にジャンプ? フィギュアスケートでもAI活用に期待
桐蔭横浜大学スポーツ科学部で専任講師を務めている廣澤聖士氏は19歳からフィギュアスケートを始め、青木と同じリンクで練習していたという。スポーツ界では野球でAIの先進的な取り組みが進んでいる事例を紹介。野球でヒットやホームランが出やすくなる打球速度や打球角度が数値として示されるようになったこと、AIを活用して選手の打撃フォームを改善していくシステムが確立されていること、さらには肘の故障や疲労骨折などの傷害予防としてウエアラブルデバイスで投球制限をしている活用例を示した。
青木はAIを駆使した先行事例に興味を示し「やはりジャンプが点数の大きいところなので、確率を挙げるということで、速度感、角度、どのくらいのタイミングで(回転軸を)締めるのが一番効率的なのかを数値で理解して、それを応用できれば、試合での確率も上がり、練習も密度の濃いものができるのではないかと思う」とフィギュアスケートでの活用にも期待した。
人間ならではの強み
採点競技のフィギュアスケートでは、ジャンプなどの質を審判がジャッジして加点、または減点する「出来栄え点(GOE)」が導入されている。廣澤氏は「ダブルアクセルジャンプは、幅がある方が高さ(があるもの)よりも点が出やすい、そういう傾向が出ています」と研究データを披露。青木は「出来栄え点の項目に『高さ』『飛距離』という項目や『無駄な力を使わない』というのもあって、普段から練習している。AIで数値化し、目に見えるようになると、トレーニング方法なども変わってくると思う。すごく興味があります」と目を輝かせた。「練習時間が限られる中で、ジャンプにかける時間が長くなる。そこの配分としては、ジャンプ(の練習)が多いのが現状。早く改善策が見つけられたら、ステップ、スピン、スケーティング、表現面までもっと手が回るのかなと思っています」と波及効果への期待感も口にした。
一方で、コーチの熟練の指導法や経験に裏打ちされた適切なアドバイスのように、人間ならではの強みもあるという認識も示された。廣澤氏も、こう指摘する。「ファンの中には(選手が演じる)プログラムをそのまま受け止めたい方もいると思う。そういう方にはデータを逐次出すと邪魔になってしまうこともある。大事なのは選べる社会。フィギュアスケートはデータで楽しむところがなかなかないので、個人的にはそこは期待している。ただ(それが)スタンダードになるというのは、またちょっと違うかなと思っている」
フィギュアスケートの真髄とは
青木は、振り付けにおいてもリンクカバーや滑るコースの確認などでAIを活用できる可能性を示唆。その上で、フィギュアスケートの神髄を言葉にした。
「ジャンプという技術面のすごさ、スポーツの大変さ、厳しさと芸術面のフィギュアならではの美しさ、これが合わさった時がフィギュアスケートの本当の良さだと思っています。音楽に合わせて何かを表現することで、演技を見て人の心を動かせるところが神髄。フィギュアスケートの良さをたくさんの方に知ってもらえるように、いい演技をお届けできたらいいなと思います」
モデレーターを務めたAI研究家の大西可奈子氏は「今日お話を聞いて、まずフィギュアスケートの奥深さに驚きましたし、その難しさや大変さもすごく理解できました。一方でAIの活躍できる場っていうのは、まだまだあるなとも感じました。とはいえ、最後はやっぱり人だね、というところも、すごく痛感したかなと思います。おそらくフィギュアスケートに限らず、今、ビジネスにもAIが入ってきて、人の役割って何だろう、人って何だろう、ということをすごく考える時代になってきているのかなと思います。そういう方たちにも、いいヒントを与えられるセッションだったんじゃないかなというふうに思っております」と総括。スケートリンクで収録されたトークセッションは幕を閉じた。












