日本勢の活躍が目覚ましいフィギュアスケートで、存在感を増している学校がある。英明フロンティア中学校・高等学校(東京都練馬区)。全国高校総体(インターハイ)の女子で2024年に学校別総合成績3位、昨年2位、そして今年1月に悲願の初優勝を成し遂げた。「西の中京、東の英明」。そんな評価もフィギュア界から聞こえてくる。
オリンピック代表選手を輩出してきた愛知県の強豪、中京大学附属中京高等学校と並べられるほどに躍進した要因は――。近年、競技との両立を理由に通信制高校を選ぶアスリートが目立つ中、全日制高校の英明フロンティア「フィギュアスケート部」が描く、成長曲線の秘密を探った。
結束力高める「部練」
シーズン本格化を目前に控えた9月中旬。東京都江東区のアイスアリーナに7人のスケーターが集まった。年に数回行われている合同練習「部練」の日だ。「チーム英フロ」のメンバーは、それぞれ練習拠点のリンクも、習っているコーチも別々。日常的に同じ場所で汗を流すわけではない。部練は、お互いが顔を合わせ、成長を確認し合う貴重な場になっている。
インターハイ優勝メンバーの一人、高校2年生の前田さんは相乗効果を口にする。
「フィギュアスケートは個人競技ですが、フィギュア部があって仲間がいることで、みんなで励まし合って学校のために頑張ろうという団結力が生まれます。仲間の応援で緊張がほぐれたり、変な力が抜けたりして、パワーが湧いてくる。普段の練習から、お互い刺激し合うことで、試合の時もみんなで頑張ろうという雰囲気になります。集中はするけど、視野が狭くなって試合に入り込み過ぎることはない。楽しみながらできる。部活動のメリットはすごくあると感じています」
初めて全国制覇を果たした高校総体でも、結束力が勝因の一つだった。複数のスケーターの演技が積み重なり、その総合力によって学校対抗の順位は決まる。新チームの部長を務める高校3年生の吉野さんは、こう振り返る。
「ほかの試合と違って仲間がいるので、みんなで協力し合いながら頑張れます。自分の順位が落ちたら、チーム全体の順位が下がってしまうので、頑張ろうと思えました。校内でインターハイ優勝の表彰もあって、先生方から『おめでとう』と褒められて、うれしかったです」
一人のスター選手だけでは勝てない。だからこそ「自分のため」だけではなく「学校のため」「仲間のため」に滑ることになる。その責任感が、選手たちを一段高いレベルへと押し上げている。
演技の時、リンクに立つのは一人。得点も順位も個人に与えられる。しかし「学校代表」という意識を共有し、氷上でも感じる仲間の存在が、強く背中を押してくれたという。
副校長の小林伸嘉さんは、学校対抗がもたらす教育的価値を強調する。
「自分のことだけではなく、少しでも全体に寄与しようという意識が芽生えます。団体戦だからこそ学べることは非常に大きいと思います」
競技成績だけでは測れない、人としての成長。英明フロンティアの選手が手にしたのは、単なる優勝という結果だけではなく「誰かのために努力する力」だったのかもしれない。
全国高校総体(インターハイ)のフィギュアスケート総合成績(学校対抗)
個人順位の逆転法(最下位の順位点を1点とし、順位が一つ上がるごとに1点ずつ加点していく)により個人に順位点を与え、各校最大3人の順位点合計で総合順位を決定する。個人種目はショートプログラム(SP)による「予選」と、予選の上位24人がフリーを滑る「決勝」の合計得点で争う。学校対抗で同点となった場合は、個人種目で上位者のいる学校を上位とする。
成長の循環 個が育ち、チームが育つ
7人が滑る「部練」で、ひときわ輝きを放つスケーターがいた。髙木謠さん。2024年ユースオリンピック冬季大会で銅メダルを獲得し、高校3年生だった1月のインターハイで初優勝の原動力となった実力者だ。
「いつもはMFアカデミーのリンク(千葉県船橋市)で、毎日緊張感のある中で練習していますが、部活は少し違って、みんな朗らかで平和で仲がとてもいいので、滑っていてとても楽しいです。自分も先輩として頑張っていかなければ、という気持ちで練習ができるので、すごくいい環境かなと思っています」
練習中、髙木さんは気になった後輩に声をかけた。
「みんなと話しながら『もうちょっと、こうやってみたら?』みたいに伝えることができるので、すごくいい関係性ですね」
コーチと選手の上下関係ではなく、同じ目標を目指すチームメートというフラットな立場。高校1年生の関根さんは、髙木さんからジャンプのコツを教わったという。「もう少しスピードを出した方がいいよ」とアドバイスをもらい、早速実践した。「あとちょっとでジャンプが降りられそう」。確かな手応えをつかんだようだ。
髙木さんは、部長の吉野さんから「スパイラルを見てほしい」と助言を求められた。「もう少し俊敏に、パッと動いた方がいいんじゃないかな」。ただ言葉で伝えるだけではなく、実際に片足を高く上げて滑るスパイラルを披露して見せた。
リンクサイドで練習を見守っていた選手の母親は、言葉に実感を込める。
「所属クラブだと、どうしてもライバルという感じになってしまう。でも、ここではスケート仲間という意識の方が彼女たちの中で強い。最年長でも17歳の中高生。大学生とは違う、まだ幼い中で、どう育んでいくか。親たちはあまり干渉しないようにしています。身近な先輩と直に触れ合え、子どもたち同士で教え合えるのは、すごくいいことですね」
そして、髙木さんを「特別顧問みたいな感じ」と表現した。
髙木さんの存在は、競技成績だけでなくフィギュアスケート部の文化形成にも大きな影響を与えている。「インターハイで優勝できるとは本当に思っていなくて…。一人だけでは優勝できなかった。吉野さんと前田さんがいないと、絶対あの結果は出なかったと思っています」と髙木さん。トップ選手でありながら、自らの活躍を誇るのではなく、まず仲間への感謝を口にする。そんな謙虚さに目を細める顧問の二渡道雄教諭は「みんな髙木謠と同じ学校で、同じ部活でやっていきたいという思いから英明フロンティアに来てくれています」と明かす。
実際、後輩たちの言葉からも、その影響力の大きさが伝わってくる。
「来るだけで場の雰囲気が変わる。部が締まりますし、明るくなります」
「普段の練習から、一人だけ全てが別物というか、練習する姿勢もそうですし、練習に向き合う態度も本当に素晴らしい」
興味深いのは、髙木さん自身もまた、後輩を指導する経験を通して成長していることだ。
「教えること、言葉でうまく説明することは難しいなと思います。コーチになる難しさを感じますね。自分はまだまだ、教えるような立場ではないと分かっていますが、将来的には指導者になりたい。そのことを学校の先生も分かってくださっていて、たまに『謠ちゃん、あの子に教えてあげて』と言ってくださることもあるので、すごくうれしいです。例えば、他のスケーターのジャンプを見ていると、力み過ぎていたら跳べないということが理解できます。そうすると、自分も同じようなミスをした時に、力み過ぎちゃっているのかな、と分析できる。『見て、学ぶ』ことがたくさんあるなと思います」
英明フロンティアでは、トップアスリートが後輩を導き、周囲に還元する経験を通して自らも成長している。「個が育ち、チームが育つ」という循環が、そこには育まれていた。
通信制では得られないもの
フィギュアスケート界では近年、通信制高校を選択するアスリートが増えている。トップを目指すためには、競技中心の生活を送りやすい環境が求められるからだ。通信制であれば、練習時間を確保しやすく、大会や合宿にも対応しやすい。競技力向上を最優先に考えれば、自然な流れともいえる。
そんな潮流の中で、全日制高校の英明フロンティアはインターハイ制覇の快挙を達成した。
髙木さんは明かす。
「最初は通信制を選ぼうかなと思ったんですけど、通学の方がスケート以外のお友達もできますし、社会性も身につくと思ったので、この学校に入りました。実際、学校のお友達もたくさんできましたし、いろんなことを学ぶことができて、やっぱり入って良かったなってすごく思っています」
髙木さんの背中を追う後輩たちも思いは同じだ。
前田さんは、英明フロンティアが共学化する前の東京女子学院中学校時代に、フィギュアスケート部がある同校に憧れて入学を決意した。隣駅に練習拠点のリンクがあることも要因だった。ただ「ちょうど高校に上がる時に共学化が決まったので、通信制の高校に行くか、すごく迷った」という。「でも、中学の頃からスケート部で頑張って、みんなで練習する機会もあって、自分の力になっているように感じていました。だから、やっぱり通学しながら、みんなで頑張る雰囲気の中で続けたいなと思って進学を決めました」
中学3年生の上谷さんは、この学校を選んだ理由について「人生において、通信制はちょっともったいない気がしていました。学校でしか会えない友達が多く、そこは全日制の良いところかなと思っています」と率直に話す。バスケットボール部やバレーボール部も活躍しており「自分も頑張ろうと思うキッカケになるから、すごく刺激になっています」と語る。
インターハイ優勝という結果だけを見れば、競技面をどう強化してきたのかに注目が集まる。しかし、生徒たちが繰り返し語ったのは「学校生活そのもの」の価値だった。
小林副校長は言う。「高校生ぐらいになると、先生から学ぶことだけではなくて、友達から学ぶことも非常に多いんです」と。
授業を受け、友人と過ごし、学校行事に参加する。そこには、競技だけではない毎日がある。異なる価値観に触れること。仲間と力を合わせること。誰かを応援し、応援されること。そうした経験が競技者としてだけでなく、一人の人間としての成長を促している。
両立を支える学校の本気
個々の結果を競うフィギュアスケートで、学校として頂点に立てた理由は何だったのか―。そこには、選手個人の能力だけでは説明できない「人が育つ環境」の存在があった。
英明フロンティアが目指してきたのは、競技力だけを伸ばす学校ではない。生徒一人一人が自ら課題を見つけ、挑戦し、周囲と支え合いながら成長する環境づくりだった。インターハイ優勝は、その教育の成果でもあった。
授業に出ながら全国トップレベルの競技活動を続けるには、大きな負担が伴う。だからこそ、生徒に「頑張れ」とだけ求めることはしない。
試合や遠征で授業を欠席した際には、教員が補習を行う。
授業内容を整理したプリントを用意する。
友人がノートを共有する。
そうした日常の積み重ねが、競技との両立を支えている。
吉野さんは「先生たちが優しくて、休んだ日の内容を教えてくれる」と感謝する。
小林副校長は笑いながら言う。
「うちで他校に負けないのは、練習の時からいつも先生が張り付いていることです」
技術指導はできなくても、部練で選手たちに寄り添う。大会でも朝から晩まで一緒にいる。その姿勢に、他校の保護者から驚かれることも少なくないという。
髙木さんはそんな先生たちへの感謝を口にする。
「先生方は全員優しくて、たまに会うと『頑張ってるか?』『足は大丈夫か?』と声をかけてくださる。本当にありがたいです」
前田さんも「先生たちが温かく応援してくれる。スポーツを頑張っている仲間も多いので、お互い刺激し合える」と語った。
競技と学業。どちらかではなく、どちらも大切にする。頑張る生徒を、先生は全力で支える。その姿勢が、英明フロンティアの文化を形作っている。
AI時代だからこそ、人と人との関わりが価値になる
英明フロンティアは近年、東京女子学院から共学化を果たし、大きな変革を進めている。根底にあるのが、建学の精神である「英明闊達」という教育理念。一人一人が主体的に考え、課題を自ら発見し、解決のために行動できる人材の育成を目指している。
その象徴が、探究型ゼミ学習「イノベーションクエスト」だ。生徒たちは少人数で外部の専門家や研究者と交流し、自ら問いを立て、社会課題に向き合う。
小林副校長は「気付いて、考えて、動く。そのサイクルを実践させたい」と語る。
AIが急速に発達する時代。分からないことはAIが教えてくれる。しかし、何に疑問を持つのか、どんな課題を発見するのかは人間にしかできない。
だからこそ必要なのは「気付く力」だ。そして「考える力」「行動する力」だ。
小林副校長はこう続ける。「考える習慣や、実際に動いて感じることを大事にしてほしい」
それはフィギュアスケート部にも通じる。
仲間の演技を見て学ぶ。
先輩から教わる。
後輩に教える。
支えられた経験を次の世代へ返していく。
顧問の二渡教諭は「体だけでなく、心も成長する多感な時期。競技から教わるというよりも、友達や環境がその子を育ててくれる。それが、これからの人生で力になってくる」とみている。
前田さんは大会でジャンプに失敗があっても「その場で演技構成を組み直しながらリカバリーする練習を積んできた」と話していた。
答えが用意されていない状況で、自ら考え、判断し、行動する。その力は社会でも必要になる。
部長となった吉野さんは「責任感」が芽生えてきたという。ともに中学3年生の上谷さんと小山さんは、2030年冬季オリンピックの新種目に採用された「シンクロ9」の挑戦を始めた。高校2年生の尾野さんは、インターハイ予選の出場資格が得られる6級を目標に掲げる。
優秀な個を集めるだけでは、組織は強くならない。一人一人の進化がチームを強くし、チームの成長がさらに個を伸ばしていく。英明フロンティアが示した「成長の循環」は、AI時代に求められる人材育成のヒントになりそうだ。
企画:Deep Edge Plus
協力:英明フロンティア中学校・高等学校
協賛:日本ヒューレット・パッカード合同会社





