10年前に対談したという野村萬斎さんと羽生結弦さん。その時、萬斎さんは羽生さんに表現者として持つべき意識や、音と体の関係などについて伝えたという。狂言師としてジャンルを超えた表現に挑み続ける萬斎さんは自身を「職業野村萬斎」と名乗ってきた。今回、プロとして競技者と表現者の間に立っている羽生さんを「職業羽生結弦」と評し、同志と呼ぶ。アイスショー「notte stellata」に参加し、「彼しかできないことを素晴らしい形でやっていることに非常に感動しました」と賞賛した。(聞き手 東るい)
野村萬斎さんインタビュー【前編】はこちら リズムと拍 ステップと運び 根底でつながる能狂言とフィギュアスケート 羽生結弦VS野村萬斎 越境する2人の表現者が響き合ったアイスショーの裏側
音楽に合わせるのではない。音をまとうのだ、という萬斎の教え

―10年前に羽生さんと対談した時には、内側にあるものを言語化できていない部分があったけど、今回会ってみたら、それが具現化されていたという趣旨の話を(「notte stellata」初日の囲み取材で)していた。具体的にどういう時に感じたのか。
「よくしゃべるようになった。前はアスリートで20歳ぐらいでしょ。練習に明け暮れていて、それを言語化する必要もないし、 言語化する前に、とにかく加点競技だから、その技をできるかできないかが重要じゃないですか。それがプロに転向されて、表現者になった時に、何を表現するんだと。 僕は10年前にお目にかかった時に、目的意識を持たずにただやるな、と実は伝えたつもりなんですね。ただ手を挙げないで、手を挙げた方向に天があるんだとか、地があるんだとか、そういう目的があれば必ずそれに対する必然が生まれる。そういう風に目的があってやるんだよって言ったら、彼はそこに気が付いたわけですよね。必然を持つ。そして音をまといなさい、音楽に合わせるんじゃないんだ、と。音をまとって、音を体が表現しているようにしてみなさいってことを僕は言ったと思います」