フィギュアスケート男子の元世界王者の高橋大輔さん出演の朗読劇『Love and Information』が5月24日まで横浜市のKAAT神奈川芸術劇場で開催中だ。高橋さんが歌唱やダンスなど、音楽の要素を取り入れず、せりふのみで物語を展開する演劇に挑戦するのは初めて。演出家の桐山知也さんにキャスティングや、舞台に立つ高橋さんの姿について、話をお聞きしました。
『Love and Information』
作品は、イギリスを代表する劇作家キャリル・チャーチルさんが2012年に発表。
イギリスを舞台に、宗教や気候、科学技術、精神、愛などについて、恋人や夫婦、患者と医療関係者、結婚式の参列者とおぼしき人々の会話が表れては消え、舞台上に多様な人々が交錯していく。作品には明確なストーリーはなく、50以上ものシーンからなる。キャストは無数の登場人物を演じ分けながら、複雑な現代社会の様相をほぼ言葉だけで見せる。高橋さんは患者の役や神の声を聞いた人、父親とおぼしき人などを演じた。
今回、プロのアーティストで構成された「メインチーム」(高橋大輔さん参加)と、20代の若手俳優のみで構成された「ネクストチーム」でそれぞれ公演。基本的に稽古は両チーム一緒に行い、さまざまなシーンの解釈などを行っていったという。高橋さんが『氷艶』などで共演してきた大野拓朗さん、エリアンナさんも出演している。
チケットは全席指定席で、S席:8,000円、A席:6,500円、B席:5,000円。「KAAT神奈川芸術劇場」では23日午後5時の回では、高橋さんがエリアンナさん、水江萌々子さん、大野拓朗さんとアフタートークも行う。
公演は、愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース」2026年6月5日(金)~7日(日)でも行われる。
みんなで話す
―先ほどの取材の中でもネクストチームとメインチームの稽古の話が出ましたが、今回は一緒に稽古をされたんですか。
桐山「はい、そうです。『ネクスト』だけオーディションで選ばせていただいたんですけど、ほぼ(演劇が)初めての人ばっかりでしたので、メインチームより1日だけ早く集まってもらって、どんなふうにこのテキストをしゃべることができるのかなっていうことは確認して。(それ以外は)基本的にはみんなで一緒に話しました」
―このシーンはどんなシーンなのかということを話していくような感じだったんですか?
桐山「そうですね。じゃあちょっとメイン(チーム)で読んでみて、メインの方の意見を聞いて、じゃあネクスト(チーム)はどう思ってる?とか、どう考えてた?と(聞いて)、(メインもネクストも)大体一緒ですねっていう時もあれば、いや(同じシーンでも)全然違うことを考えてましたということがあったり。そういう稽古を通じてお互い刺激を受けて、メインチームの方が言ったことを、じゃあちょっとそれを取り入れてみようかとか。そういうこともたくさんありました」
―その話し合いの中に高橋さんも一緒にということですか?
桐山「そうです、そうです。大輔さんも基本的にはずっといていただいて、大輔さんもいろいろとお話をされていました」
センスが良い
―演技のワークショップで以前、高橋さんと一緒になったというお話でした。それは何かそういう申し込んで開くみたいなことがあったんですか。
桐山「今回(『Love and Information』を)主催している『R Plays Company(アールプレイズカンパニー)』がやっている俳優のためのワークショップがありました。僕が講師として参加した回があって、そこに大輔さんがいらっしゃっていました。本当に短い、4時間くらいの、短い1日だけでしたが、初めて『高橋さんがお芝居をやられるんだ』ということを知って」
「その時は戯曲があって、ちょっと短いシーンをペアで組み合わせを変えたりしながらやったんです。高橋さん本人も(せりふを)しゃべるの苦手だからとはおっしゃっていました。でも、やっぱりこう立たずまいとか、ポジショニング...ポジショニングとはあまり演技では言わないんですが、立ち位置や、相手が動いた時の体のリアクションの仕方がとてつもなくセンスが良い、当たり前ではあるんですが。トップアスリートを捕まえて、身体的能力が高いなんて僕が言うことじゃないんですけど...すごいなと思いました」
いろんな人に
桐山 「この話(『Love and Information』)はまだその時は、やるともやらないとも決まっていなくて。ワークショップも何年も前の話なんですけど。今回のプロデューサーの佐藤(玲)さんに、『すごいね』って言いまして、もしチャンスがあれば大輔さんと何か、ワークショップなのか、公演なのか、やれたらいいねっていう話をしていたんですよね」
「今回、佐藤さんから、(キャスティングで)高橋さんはどうですかと話していただいて。今回の本はいろんな人が出てくるし、やっぱり(舞台となる)イギリスがEUを離脱してずっと(イギリス社会が)揺れていますよね、多様な人々がいる国で。キャリル・チャーチルは(多様さについて)そんなにはっきりとは書いてないんですが、やっぱりそこに住んでいる人が書いているので、いろんな人が集まれるといいかなと思っていました。外国人の方はどうかなとか、スポーツ選手の方、タレントさん、学者さんなんかを考えて。例えば、そういう人たちでやれたらいいかなっていう話はしていたんです。(高橋さんのキャスティングは)それがきっかけですかね」
重要なシーンで
―いろんな方が参加していますが、基本的には高橋さん以外の方は俳優さんかなと思いましたが。
桐山「そうですね。ミュージカルだけに出演している方はいます」
―今回の演出の中で、私が気になったのは、高橋さんの立ち位置でした。場面が変わるときに、高橋さんだけがしゃべらずに舞台に残っていて、もう一人の方がしゃべっているシーンがいくつかありましたよね。どんな立ち位置と考えていたんですか。
桐山「特別に大輔さんだからどの役っていうことはなかったんです。ただ、本の内容からして、結果的にですが、(大野)拓朗さんと出演するシーンが多くなっていきました。実は、最初はもっと多くて、さすがにちょっと多すぎるかなっていうことがあって。やっぱり高橋さんに他の人ともしゃべってほしいし、それは大輔さんだけじゃなくて、拓朗さんも他の人といろいろやってほしいかなと思って(2人が会話するシーンを減らした)」
「そういうようなことをやっていく中で、先ほどおっしゃった、高橋さんがしゃべらない役として出るのが、『憂鬱』と(幕に書かれる)シーンでした。これは作家(キャリル・チャーチル)自身が重要視しているシーンで。作品のどこでやってもいいけど、必ずやって欲しいシーンだと。この芝居にとってはとても重要なシーンだと書いてあるんです」
「実は昨日までは(舞台に残って)立っている人は、もう、とっかえひっかえ(いろんなキャスト)だったんですよ。大輔さんも立っているだけでなくて、しゃべる側になったり。(今の)世界が少し鬱(のように)になってるっていうか、少し深刻になっているという象徴として、みんなでやろうと思っていたんです。でも昨日(14日の)通し(稽古)を見ていて、大輔さんがしゃべらずに立っている姿が、とてつもなく良くて。大輔さんを繰り返した方がいいんじゃないかっていうのを見てる時に思って、今日からなんです」
動き出す瞬間の体のキレの良さ
―急遽なんですね。
桐山「急遽、そうですね。今日(5月15日)の稽古で大輔さんに(変えて)いい?ってお願いしまして。他のキャストもそれの方がなんとなく、説得力があるからと理解して。じゃあ、そうしようと。しゃべらない表現、やっぱり立ち姿、体がすごくできているっていうのもありますし、それから台詞の聞き方であったり、動き出すときの瞬間の体のキレの良さであったり。それがお客さんの目を引く、あのシーンが意味のあるもので、何かわからなくても重要な意味を持ってるんじゃないか、そういうことを(見ている人に)伝えられるんじゃないかなと思ったんです」
人間の存在が見える
―最後に会話劇でずっときて、最後に、でも体の反応で終わるじゃないですか、それは何かありますか?
桐山「たまたま寒い、誰かがくしゃみをするという作家の指示があるだけで、そのシーンにはせりふはないんですね。でも、それは絶対どこかに入れたいなと思っていたんです。情報の話や星が...、脳みそが...ってずっとしゃべっているんですよね。くしゃみって、自分がしたくてするものじゃないんだけど、『くしゅん』ってやっちゃうとそこに体があるというか、一種の人間がいることの理由や、温かさだったり、人間存在が見えてくるかもしれないと。もちろんお芝居でくしゃみをしているので、本当のくしゃみではないんです。けど、みんなが急に身体的に動き出すっていうのが、何か今回意味があるかなって。あえて、(体の動きを)そこまで封じてるっていう意味も、もしかしたらあったのかもしれないですけど」
チケット情報
【神奈川公演】
2026年5月16日(土)~24日(日)
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
【愛知公演】
2026年6月5日(金)~7日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース












