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2025.09.02

【無料公開】生まれ変わって東京辰巳アイスアリーナが開業 「水泳の聖地」から都立初の通年アイスリンクに

東京辰巳アイスアリーナのメインリンク(東京都提供)

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 9月6日、東京都心に氷上競技の新たな拠点「東京辰巳アイスアリーナ」が誕生する。30年にわたって水泳の聖地として親しまれた東京辰巳国際水泳場(東京都江東区)が2023年3月の閉館後に改修され、都立初の通年型アイスリンクに生まれ変わった。

 スケーターの受け皿として期待される施設の運営を担うのはセントラルスポーツ株式会社(以下、「セントラルスポーツ」)だ。スポーツクラブなどを手がける同社で、東京辰巳アイスアリーナの施設長を務める伊勢秀一さんに運営に懸ける思いなどを聞いた。2回続きで紹介する。(共同通信=大島優迪)
 【第5回 銀盤の未来・2回続きの(上)】 

取材に応じる伊勢秀一さん=7月7日、東京辰巳アイスアリーナ

年間約28万人利用想定

 1993年に開館した東京辰巳国際水泳場は、日本有数の競泳の拠点として国内外の主要大会で使用され、2021年東京オリンピックでは水球会場となった。観客席の数が少なく、オリンピックの競泳の実施基準を満たさなかったためで、近隣に新設された東京アクアティクスセンターが競泳会場となった。

 東京アクアティクスセンターの建設と並行し、東京都は既存施設の有効活用のため、東京辰巳国際水泳場を同センターとは異なる機能を持つスポーツ施設として生かすことを模索した。2018年11月の都スポーツ振興審議会では同水泳場をプールのまま使うか、アイスリンクまたはアリーナ(体育館)に改修するという3案が公表された。

 その後、競技実施人口や需要、運営コストなどの観点から議論が進んだ。スポーツ庁の「体育・スポーツ施設現況調査」や「レジャー白書」のデータをもとにプール、アイスリンク、アリーナを使った競技実施人口や施設数を比較。都内のアイスリンクが少ないため、1施設あたりの利用者が多くなっている状況が浮かび上がった。

東京オリンピックの水球会場となった東京辰巳国際水泳場

 2019年3月には通年アイスリンクとして改修する案が公表された。アイスリンクを整備した場合、氷上6競技を実施できて都民の利用の幅が広がるほか、運営費を抑制できる優位性があり、大会やイベントの開催によるスポーツ観光への活用の可能性が高まることなどが判断材料となった。

 都は一般からも意見を募り、2022年11月に改修後の施設運営計画を発表した。新たに国際規格の縦60メートル、横30メートルのメインリンクと、縦47メートル、横17メートルのサブリンクを整備。観客席は固定の約3600席に加え、仮設で約1400席も追加で設置可能となった。約59億3千万円の改修費や大型映像装置などの導入費の約9・1億円(ともに見込み)が計上された。

 運営の基本方針には①国際・国内競技大会の会場、競技力向上の場として活用②都民が利用しやすい氷上スポーツの場の整備③「観るスポーツ」を促進し、地域の活力創出に貢献④効率的な施設運営の推進―の4項目が示された。年間利用者は約28万人と見込んだ。

 注目されたのは年間運営費の想定だ。人件費や光熱水費などを合わせた概算費用が4億8140万円、施設利用料を中心とする概算収入が3億2710万円とされ、収支の差額約1億5400万円は東京都からの指定管理料が充てられる。

難しい維持管理費の判断

 セントラルスポーツはプール施設を中心にグループ会社も含め、257施設を運営する。大阪市立浪速スポーツセンターと兵庫県立尼崎スポーツの森の2施設でアイスリンクを運営してきた実績もある。

 東京辰巳国際水泳場には指定管理者の構成企業として2011年4月から12年間にわたって運営に携わった。伊勢さんは「思い入れは非常に強い施設でした」と言う。同水泳場がアイスリンクに転用されると公表された際には「運営ノウハウを十分に生かすことができる。当社の思いと実績を実現させたい」との考えがあった。

 2024年7月に都から指定管理者の募集要項が公表されると、セントラルスポーツでは、さまざまな検討が重ねられた。

 「一番難しかったのが費用面です。特に光熱水費については東京都も根拠を持って算出されていますが、運営の仕方によってそれがどう変わるのか、収支を計算するにあたって、そのまま(数字を)使っていいかというところは会社として、非常に難しい判断でした」

2023年3月末で閉館した東京辰巳国際水泳場と外観は変わらない

 東京辰巳アイスアリーナはもともと水泳のために建物がつくられ、同社がこれまで運営してきたアイスリンクの2施設より規模が大きい。また、観客席から見える壁面には大きなガラス窓がある。遮熱シートを設けて対応するが、効率的な冷却や維持管理運営にどのような影響を与えるか「正直に言って見えない」ところもあった。全国各地のリンクで課題になっている近年の光熱水費の高騰の影響も考慮する必要があった。

 「弊社は株式を上場している民間企業ですので赤字のままで運営する訳にはいきません。売り上げは営業努力で目標を達成することができると思っていますが、維持管理に関してはかなりの時間をかけて検討しました」

 指定管理期間中の収支計画の金額は公開されていないが「収支についてはチャレンジングではありますが、成り立つように努力しないといけないと考えています」。効率的な支出管理や売り上げの安定化により、収益の確保を目指していく方針だ。

 (下)に続く。

東京都内のアイスリンク

 2021年1月に新宿区高田馬場にあったシチズンプラザが閉館し、東京23区内の通年リンクは新宿区の明治神宮外苑アイススケート場だけだった。東京辰巳アイスアリーナが2カ所目となる。23区外には西東京市のDyDoアリーナ(ダイドードリンコアイスアリーナ)、東大和市の東大和スケートセンターがあり、2024年11月には浅田真央さんがプロデュースした立川市の「MAO RINK」が開業した。江戸川区スポーツランドは10月~5月の冬季期間で営業している。

大島 優迪

この記事を書いた人

大島 優迪 (おおしま・まさみち)

2014年入社。大阪でプロ野球阪神、サッカーを担当。19年末に東京運動部に異動し、東京五輪ではスケボー、BMX、3x3などを取材。現在はサッカー、卓球、フィギュアスケートを担当。神奈川県出身。

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