連載

2026.01.21

【無料再公開】テレビアニメ「メダリスト」の原作者に聞くフィギュアスケートの魅力 「難しそう」から始まった採点競技の面白さ

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 フィギュアスケートでオリンピックを目指す少女の成長を描く漫画『メダリスト』(講談社)が大ヒットしています。「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門第1位などを受賞。テレビアニメ化もされ、人気を呼んでいます。

 作者のつるまいかださんにフィギュアスケートの魅力を尋ねると、「芸術的と言われる競技のベースには、ものすごくたくさんの技術がある。わたしが知った感動を共有したい気持ちで描いています」と教えてくれました。

 熱心に取材を重ね、フィギュアスケートの世界を多様な視点で描き出すつるまいかださん。どんな思いで制作しているのでしょうか。話題は、フィギュアスケートの複雑なルールを知る面白さから、フィギュアを教える大人と子どもの関係のあり方まで広がりました。

 昨年2~3月に公開したインタビュー【上】【中】【下】を1月21日から1日1回ずつ無料で再公開いたします。


ⓒつるまいかだ/講談社

「メダリスト」は…

 講談社の月刊青年漫画誌「アフタヌーン」で連載中。
 物語は、「氷の上では別人になる」小学5年生の結束(ゆいつか)いのりが主人公。アイスダンスで全日本選手権に出場経験のある青年・明浦路司(あけうらじ・つかさ)と出会い、才能を見いだされるところから始まる。
 中学生でフィギュアスケートを始めた司は、不遇な環境でスケートを続けて挫折。スケートを始めるのは小学生でも遅いと言われる世界だが、そんな「常識」を覆し、2人は共にオリンピックの金メダリストを目指して挑んでいく…。

地元・愛知を舞台に、物語の始まりに選んだのはノービス

つるまいかださんの自画像

 ―これまでにもさまざまな漫画家が主題としてきたフィギュアスケート。今回、テーマにした理由の一つには地元・愛知に貢献したいという思いからだった。

 「私は愛知県出身なのですが、地元を舞台にしたお話を描きたかった。そんな中で、愛知はフィギュアスケートが盛んと知って。すごく人気があり、華やかな世界のイメージが強いスポーツですが、私は当時テレビに登場する選手しか知らなくて。どうしたらこんな風に滑ることができるのか、詳しい物語があったら、私も知りたいし、漫画にすると面白いんじゃないかと思ったんです」

 ―ただ、作品を描くまでは、派手な応酬のない採点競技をテーマにすることの難しさも感じていた。

 「サッカーとか、バスケットボールといった競技のように、ゴールを決める、点の取り合いになるといった場面があると、競技として分かりやすいですよね。たった1人でやり続ける競技をどうやって描いたらいいのかと。漫画にするのは難しそうという気持ちがありました」

 「でも、いまはすごい競技だと思っています。テクニックを積み上げた表現から生まれる感動です。もちろん芸術的スポーツではあるので、美しい踊りや煌びやかな衣装、観戦というよりは鑑賞に近い感覚でフィギュアスケートに魅力を感じている人たちもたくさんいらっしゃって、それもとても素敵な楽しみ方です。一方で、もっと技術面に注目したい方やこれからフィギュアスケートを知っていただきたい人たちに、このスポーツの新しい切り口を提示して、共有したいなっていう気持ちがあります」

 ―舞台の始まりに選んだのは、シニア、ジュニアよりも年少のノービス。小学生の選手が戦うクラスだ。

 「フィギュアスケートについて調べ始めた頃、特に1話の原型を描いていた時は『やっぱり5歳から始めないと、このスポーツは無理だよ』って言われることが多くて。それならこの作品もノービスから始めようと思いました」

 「でも、描き始めてみると、スケートって5歳からじゃなくても大丈夫なんじゃないかと気づくこともあって。氷の上に長い時間いれば強くなると考えが変わってきた。身体的な理由よりも、そういった積み重ねの時間や精神的な部分も大きいのではって思うようになりました」

 「今は、もしかしたら12歳とか、それこそ司が始めた14歳で始めても、立派なスケーターになることはできるんじゃないかなと感じているので、1巻では『スケートは5歳から』って描いているんですけれども、ぜひ14歳から、本気でフィギュアスケーターを目指すこともいいんじゃないかな、ととても思っています」

 「ただ漫画の世界では、まだそのことも言い切れないし、言い切るかどうかも迷っています。何か答えが出たら私は作中で何らかの表現だったり、言葉で伝えたりしたいです」

「知っているのは、フィギュアスケートの世界の一部に過ぎません」

漫画「メダリスト」4巻表紙

 ―作中では詳しいルールや試合の仕組み、選手のメンタルコントロールの難しさまで細やかに描写される。技術を磨き上げ、演技を高めていく厳しい世界の舞台裏をのぞいているような臨場感があり、綿密な取材をうかがわせる。

 「フィギュアスケートの世界を知る前には、芸術の世界とか、お金持ちの人がするスポーツなのかなとイメージしていました。実は作品を描き始める時にフィギュアスケートを習いにいったんですが、自分みたいなこれまでフィギュアスケートに何の縁もなく、スケートの審美眼もない人間が行って大丈夫だろうかと少し不安でした。でも足を踏み入れてみると、そんなことはなくて…。芸術の世界と言ってもやっぱり技術が第一。そのことにまず驚きました」

 「取材ではたくさんのクラブにお世話になりました。マスタークラスや年配の方、幼稚園の子どもがいるようなクラブ、最近ではトップクラスの選手が加入しているクラブも見せていただいています。でも取材を通じて、私が知っているのは、フィギュアスケートの世界の一部に過ぎません。まだまだ勉強不足だと思っています」

氷の上の経験を描きたい

ⓒつるまいかだ/講談社

 ―つるまいかださんは連載前にスケートを習った時、リンクで転倒して複雑骨折…。今は滑っていないというが、体を張った取材を通じ、スケーターたちの強い精神力に気づかされた。

 「転んだことが、ちょっとトラウマになっています(笑)。大人になって転ぶと、こんなに傷つくんだなって。スケーターの皆さんは転んでけがをしても、その後にも氷に立ちます。試練を乗り越えていくそうした精神的な力って本当にすごいと感じます」

 「スケーターが氷の上で過ごす時間は本当に長くて、そこで何度も何度も転んでいます。そうした時間がある一方で、ほかの子どもが普通にしていることが経験できない場合もあるんです。例えば、修学旅行とか。そういった話をしている輪に入れないこともあるようです。でもお話を聞いた中では、たとえば、海外試合など知らない土地で多国の選手と友情を含めたり、復興途中の国が立ち上がっていく様子を目の当たりにしたりといった体験をされてる方もたくさんいて、そこにはまた十分に濃い人生経験があるんですよね」

 ―作中では人並み外れた才能がありながら、スケートをやめることを決意した女子選手が登場し、「大切だった全部が私にいらないものになる」という胸の内が描かれる。

 「やっぱり氷の上の世界や、感じたこと、人生経験は素晴らしいものだから、氷から降りた人たちが、自分に誇りを持って幸せに暮らしていけたらいいなと思っていて。何か漫画の中でも描けたらいいなって思います」

テクニックばかり描く漫画家?

ⓒつるまいかだ/講談社

 ―採点競技のフィギュアスケート。ルールは複雑で、理解は簡単ではない。作中では、ジャンプの構成と得点の付き方など、ストーリーにのせて解説していく。

 「毎年ルールが変わりますし、難しいところはあります。でも描くのは楽しいです。私自身大会を見るとき、好きなタイプの音楽とか、スケーターが楽しそうに踊ってるぞっていうところを見て『素敵な演技だった!』と感じても、『あれ? 思ったより点数が伸びてない』ということもよくあって。どうしてこういうギャップが生まれるんだろう、みたいなところが気になります。それでルールを調べてみると、答えがあるんですよね」

 「そういった私の感動を読者の人に味わってもらえたら楽しいだろうなって。だからルールを作品に落とし込んでいくのも楽しい作業です。でもちょっと困ったこともあって…。そういう発見がうれしくて、読者の方にいっぺんに共有したくなってしまう。そうなると、読者の方たちは難しいって思ってしまうので、ちょっとずつ、ちょっとずつストーリーにルールを乗せていくように気をつけています」

 「でも始めに思っていたよりも、技術面で描かないといけないことが多くて…。技術面を描いた後に、芸術の話をしたいと思っているんですけど、たどり着けない。まだまだテクニックでお伝えしたいことがたくさんあって。だから、読者の方にはテクニックのことばかり描く漫画家と思われているかもしれません」

 ―優美な踊りに美しい衣装…。芸術的スポーツと言われるフィギュアスケート。本作では今のところ、表現のベースにあるテクニックへの挑戦を軸にストーリーが展開してきた。

 「芸術のスポーツと言われますが、芸術を表現するためには、技術の鍛錬がないと表現できないと思うようになりました。4巻あたりでも書いたんですが、感情いっぱいに踊れても、姿勢という基礎が疎かだと、芸術として受け止めてもらえないこともある」

ⓒつるまいかだ/講談社

 ―9巻では、いのりのステップシークエンスの場面で衝撃を受けたことを描いた。一見、自由に見えるステップシークエンスには難しいターンやステップなどのチェック項目がある。

 「自由に踊っていいと思っていたんです。こんなにルールが厳しいんだと知って驚きました。審査員の人が動体視力で、チェック項目を指折り数えている。実際に審査している方からもお話を聞かせてもらったんですが、審査員には資格もあって、難しいテストを受けて免許を更新していかなければならないということでした」

 「ステップシークエンスで、トレースが綺麗じゃなくて、跳ねてしまったり、曲がったり、テクニックがきちんとしてないと点数は落ちてしまう。テクニックがあってこそ、芸術がある。絵を描くこととも似ていて、下積みでデッサン力を高めないと、その先の芸術表現の自由度はとても狭くなるので」

 「実際、フィギュアスケートのクラブで取材をさせてもらっても、スケーターの皆さんが多くの時間を割いているのは、全ての土台となるスケーティングの技術などです。それが表現したいことをできるようにする自由さに結びつくのだと思います」

 「だから、アーティスティックな表現ができる選手の皆さんはすごく技術力が高い。芸術面だけが優れているんじゃなくて、技術が素晴らしいことの証明でもあるんです」
 =【中】へ続く=


Profile

 つるまいかだ
 漫画家。愛知県出身。『鳴きヤミ』で即日新人賞「in COMITIA123」優秀賞を受賞。本作『メダリスト』でデビュー。


 次回の「沼落ち!煌めくフィギュアスケート漫画」は、【つるまいかださん・中】「フィギュアスケートと同じくらい重要なテーマ『子どもと大人の関係』を描く コミュニケーションに対峙し続ける難しさ」へ続く。

前山 千尋

この記事を書いた人

前山 千尋 (まえやま・ちひろ)

デジタルコンテンツ部記者。2007年入社。青森、京都支局を経て、文化部で美術や建築、教育、ジェンダー問題などを担当してきた。山梨県出身。

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