インタビュー

2026.04.26

園遊会の着物は御所の文様に飛び立つロケットの帯で 三浦璃来選手の内面のパワー感じられる着こなし 亡き先代の想いとこだわりを聞く

 春の園遊会に招かれ、ポーズをとるフィギュアスケート・ペアの三浦璃来選手(右)と木原龍一選手=17日午後、東京・元赤坂の赤坂御苑(代表撮影)

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 現役引退を発表した「りくりゅう」の三浦璃来選手と木原龍一選手が、天皇、皇后両陛下主催の春の園遊会で披露した華やかな着物姿が大きな話題になった。三浦選手の振袖と帯は、神戸市にある創業80年の専門店「きもの百科 イトカワ」のもの。2年前に亡くなった先代のオーナー、糸川禎彦さんが孫娘のために作った、唯一無二の特別な着物だった。禎彦さんの次女で、現オーナーの糸川英里さんに話を聞いた。 (共同通信 中井陽)

 ーすごい反響ですね。

 糸川「はい、びっくりしてしまって・・。インスタグラム、私はよく分からないので、社員に聞きましたら100万ビューもあったと。お電話などでもお問い合わせも多くて、『すごいことだったんだ』と頭がついていかないほどです」

 ー三浦選手が着た振り袖と帯は、前オーナーが、英里さんのお嬢さん、つまりお孫さんのために、あつらえたそうですね。

 糸川「帯が先なんです。イトカワはつづれ織りの帯が非常に得意というか、大切にしています。 いろんなお柄を扱っていてコレクターのような感じでもあるのですが、20年ほど前、その中で当時ロケットの柄の丸帯という状態であったのがすごく希少だったので、父が求めたんです。『こんな柄は珍しいから』といってよく飾ったりしてたんですけど、私たちの娘と、兄のところに娘がもう一人いまして、ちょうど同い年で女の子だったので、丸帯を大胆に切り、裏を付けまして、2人のために、振り袖用の帯として用意してました」

  ーロケットの柄が珍しい。全体はどうなっているのかな、と見たくなりました。

 糸川「染色芸術のパイオニアのような方で、山鹿清華さんの作で、いろいろなロケットが空を飛んでいるっていう感じの柄です。ロケットから噴出する炎はお花で表現されています」

五輪フィギュアスケート・ペアの三浦璃来選手(手前右)、木原龍一選手と言葉を交わされる天皇、皇后両陛下=2026年4月17日、東京・元赤坂の赤坂御苑(代表撮影)

 ー帯の柄は、世界で活躍してきた三浦選手にぴったりだったわけですね。 振り袖についても教えて下さい。

 糸川「これはオリジナルで制作したものです。今から10年ほど前でしょうか、ちょうど娘の顔に映るように前オーナーが色にこだわって、何度も検討しまして制作しました。ピンクでも、ちょっと青みがかってラベンダーのような色合いに染めたいと、やっと理想の色になって、それから刺しゅうをしています。制作期間としては2~3年はかかったと思います。 生地は『一越ちりめん』で、あまり照りがないので、刺しゅう糸が非常に映えやすいんです」

 ー柄がくっきりと見えますね。色味にこだわって染めた生地に刺しゅうをした。

 糸川「刺しゅうの文様は宮中の風景を映した『御所解』という古典柄を全体に施しています。つづれの帯も、刺しゅうも父が大好きなものでしたので」

 ー前オーナーの審美眼とこだわりが詰まっている。

 糸川「イトカワといえば刺しゅうというイメージがあるぐらい、みんな、社員も良い刺しゅうを見ると、みんながいいねって言うんですよ」

 ー圧巻の華やかさがあり、模様も園遊会という場にふさわしいですね。御所の風景を表現したものですものね。

 糸川「先ほども(顧客から)お尋ねされたのですが、今本当に世の中に同じものがなくて。 娘が18歳のときに成人式の前撮りでこちらの振袖で撮影したんですけど、見たときに『これかわいい』って飛びついたんです。 父が若いお嬢さんたちの感性にもフィットするように、と刺しゅうの色糸の重ね方に非常にこだわっていました」

 ーたしかに古典文様なのに、どこか現代的ですよね。 前オーナーの想いとこだわりが詰まった振り袖と帯を、三浦選手が身に着けたんですね。

 糸川「あの振り袖は、もう完全に成人式用で娘も撮影の時に一回、成人式に一回と着ただけだったんです。その後、そのままになっていて。今回、お貸し出しのお話をいただいたときも、それでも構わないというお話でしたが『よろしいんですか?』という気持ちは、やっぱり半分ありました。
   
 「1日ほど考えて、私の父なら三浦選手に着ていただき、園遊会の席で皆様にご覧いただけることを喜ぶだろうなと思って。 晴れやかな席で、天皇、皇后両陛下や皆様とお話なさるというのも、りくりゅうのお二人だからこそ、と思いました。 そのことで職人さんたちの技術を、いろんなメディアを通して伝えられるというのが、すごく重要なことだと思いました」

 ーご家族への愛情も感じられるし、あとやっぱり前オーナーと糸川さんならではの美意識、そして職人さんの技術の粋が感じられますね。
 
 糸川「私たちもご販売だけじゃなくて、作る人たちの気持ちを伝えたいというのが一番にあります。コロナ禍以降、お辞めになった職人の方もたくさんいらっしゃるので、こういう形で皆様の前でお召しいただいて、とてもありがたかったなと思ってます」

 ー帯も着物も三浦選手にぴったりでとてもお似合いでしたね。

 糸川「はい、娘が身長が153センチでちょうど着丈もあいました。りくちゃんはお色も白いですし、やっぱり細くていらっしゃる。こういう刺繍のボリュームがあるお着物とつづれの帯は、なかなかお人柄というか、パワーも備わってないと、ここまでお似合いにならなかったのではないかと思います」

 ーお着物自体に存在感があるから、着こなすのが大変そうです。

 糸川「りくちゃんは24歳でいらっしゃいますが、(世界で活躍された)今のりくちゃんにお似合いになったんだなと思って、深いご縁を感じました」

春の園遊会に招かれ、笑顔で言葉を交わすフィギュアスケートの(左から)森田真沙也選手、鍵山優真選手、三浦璃来選手、木原龍一選手。三浦選手の帯にロケットの模様が見える=2026年4月17日、東京・元赤坂の赤坂御苑(代表撮影)

 ー問い合わせはどんな内容ですか。

 糸川「今朝も欲しいと言われる方からお電話など問い合わせが来ていますが、今の時点で作成することが可能かどうかが...。刺しゅう糸も多色で本当にたくさん使っているので、まずそれを職人さんたちが集められるかどうかというのも、もう事情が当時とは本当に変わっていますので。 織ることのできる職人さんや刺しゅうをする職人さんに、今の段階でお願いできるかという問題がありますね。また実物のお着物を見たいというお声もたくさんいただいています」

 ーりくりゅうの園遊会の映像や写真を見てほかに感じたことは?

 糸川「テレビを拝見した時に印象的だったのが、龍一さんがりくちゃんの帯を直してあげている姿を見て、その姿がとても心に残りました。何とも言えない仲の良さというか、やっぱりお二人の間柄の強さも感じましたし、装いのお色目も春そのもので、お二人の姿がとてもさわやかでした。 普段あまりお着物を着ないと『借りてきた』感じの着こなしになってしまいがちですが全く感じなかった。やっぱりお二人が内面に持っていらっしゃる強さとか、いろんなことが作用しているのだと思いました。染色や着物の業界にいる皆にとって、お二人の園遊会の姿は久しぶりの明るいニュースを届けてもらえたと思っています」

 春の園遊会で三浦璃来選手(左)の帯を直す五輪フィギュアスケート・ペアの木原龍一選手=17日午後、東京・元赤坂の赤坂御苑

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